−No.4 Lost The Way 道を見失って
「そんな時間あんのか⁉︎ また強引にプロモ入るんじゃねーの?」 「縁起でもないこと言うなよ!」 〈バサッ!〉 マークを小突いたトニィの振動で、僕がシートに置いていた手紙の束がばらっと落ちてしまった。 フレッドがそれを拾い上げ、手渡してくれた。 「…
feat.The Cure ゲートに向かって歩き出した二人に、フレッドは手を振りながらほっこりとして呟いた。 「なんだかルイス、綺麗になったみたい。穏やかで満たされている感じ……きっと好きな人と一緒にいるからだね」 「欲求不満、解消されただけだろ」 鼻で笑う…
「泊めるならジェムん家ちのほうが、広くて余ってる部屋あんだろ⁉︎」 そう、ルイスはヤスの家で世話になることになったんだ。 「だって僕の家は基本、フレッドと僕の男二人だけだから、いつ始まっちゃってもおかしくな――痛っ!」 僕の下品な冗談にトニィの鉄…
feat.Deniece Williams 甘くキスを交わす二人にいつの間に集まっていたのかギャラリーが〈ヒューヒュー♩〉と口笛を鳴らし、拍手を送っていた。 誰かが 『男の子に声援を送ってあげて!』 [Deniece Williams『Let’s Hear It For The Boy』Released:February…
feat.Eighth Wonder 「でも、デビューがどうなるか分からないし……」 トニィはルイスを抱き寄せるも、一人前になる見通しが立たないのに、軽はずみなことはできないと頑なだ。 それに関しては僕も気が気じゃなくて気休めすら言えずにいたけれど。 「オレが待…
feat.Samantha Fox カクカク揺れる僕を横目で見てフレッドがクスッと笑った。 「大丈夫だと思うよ? ルイスのほうも〝その気〟なんじゃないかな!? あのスーツケースの中の高級そうなランジェリー、セクシーなドレスにブランド物の化粧品なんて、気合い十分――…
僕等のほうはフレッドが買ってきてくれたドリンクを飲みながら、ホテルのロビーのソファに埋もれていた。 トニィの隣に座った僕は彼の様子をうかがいつつ、訊いてみた。 「昨日のトニィは、トニィらしくなかった。ルイスの前では、いつもあんな調子?」 「も…
「と、とにかくLAに帰るんだ! オレ達のことは大丈夫だから」 「なんで⁉︎ こんなときこそ側にいたいのに、どうしてわかってくれないの?」 二人のやり取りで察した僕は、思わず口をついて出てしまった。 「もしかして、まだ⁉︎」 もしかすると僕は、トニィ…
僕はヤスの頭を、軽く小突いた。 「まさか学校の女の子にも、あんな態度じゃないだろうね? そんなんじゃ彼女できないよ!?」 「あんなウザい女に比べたら、クラスのやかましい女子たちのほうが、まだマシじゃん」 ヤスの奴、鼻で笑ってるよ。 そして、勢いよ…
僕等は帰る気になれず、だからといって何をできるわけでもなく、その場にたたずんでいた。 重苦しい空気の中、とうとうルイスが口を開いた。 「ちょっと、皆んな元気出しなさいよ?」 しかし、彼女に応える者はいない。 「まさか、デビューできないってわけ…
「なんなの、あの態度⁉︎ ちょっとは認めてくれても良くない?」 口を尖らせてトニィに訴えるルイスに反応して、ヤスは意地悪そうに笑った。 「へえー、俺に認めてもらいたいんだ?」 次の瞬間、ルイスはヤスの足を勢いよく踏んだんだ! 「大丈夫か、ヤス⁉︎」…
pick out:Japan ヤスはルイスを睨み声を荒げた。 「うるせぇな! 俺達はプロとして色々考えてるんだから、邪魔すんな」 「なーにがプロよ? まだデビューしてないクセに」 「ドシロウトに、いちいち口出しされたくないね! 単純にその音を入れるだけじゃ駄目…
「別に。ただ、あの手の女は気に入らない。あの甘えた甲高い声も虫唾が走る」 ヤスにしては、珍しく感情的だ。そこへスティーブンが二人の男を連れてやってきた。 「紹介しよう。彼が米国本社の重役広報部長レッド・レイノルズだ。そしてこちらは、プロデュ…
フレッドの学校は共学だから、クラスに可愛い子がいるかもしれないしね!? 「好きな子ぐらい、いるんだろう?」 僕のしつこい尋問に観念したのか真っ赤になりながら、話してくれた。 「恋……かどうかは分からないけど、忘れられない女の子ならいるよ」 「へえ…
feat.Thompson Twins 「ルイス、いつまで居られる? 両親にOKはもらってるよね?」 「来週末ギリギリまで居るつもりよ。トニィに会いに行くって言ったら、パパもママもお姉ちゃん達も喜んで見送ってくれたわ。Ohトニィ! 感動の対面を、やり直しましょう⁉︎…
pick out:Pretty in Pink 「そんなブス、私のほうが全然キレイだし、スタイルもいいっつーの!」鼻息を荒くするルイス。 思わず彼女のヌードが脳裏に浮かび納得して顔を赤らめる僕の背中を、フレッドが気の毒そうにポンポンと叩く。 その様子を見たルイスは…
feat.Bananarama 「私が悪いって言うの?」 ルイスのひと睨みで大きく首を横に振るトニィ。 「いや……なんで急に……わざわざこっちに来てくれたのかと……も、もしかして――」 しどろもどろなトニィに苛立つルイスが遮った。 「もしかして『もうオレのこと好きじ…
「――感謝祭」 僕等はハッとなった。そうだった、アメリカではサンクスギビング・デーの連休になるんだっけ。 「感謝祭に帰ってこないなんて……おば様も寂しそうだったわよ?」 ルイスの鋭い視線にトニィがビクついている。なんだか、この二人からは甘い雰囲気…
僕はルイスをなだめなきゃと変に焦ってしまった。 「大丈夫! トニィとあの人は何でもないよ、害はないよ?」 「あたり前でしょ⁉︎」 彼女は一睨みして話を続けた。 「それで、トニィからの手紙を頼りに、ここに来てみたの。詳しい住所は知らなかったけど、写…
「どうしたの⁉︎」 慌てたフレッドがバスルームに顔を出した途端、彼は顔面にシャワーのミサイル攻撃を受けたんだ! カーテンの影から見知らぬ若い女性が甲高い声で怒鳴りつけてきた。 「なによあんた達⁉︎ レディが入浴中にスケベ! チカン! エッチ!」 僕は…
スティーブンを連れてきてくれたヤスには感謝するよ。 もし、あの音を聴いたときスティーブンがいなかったら、僕等だけでは上手く対処できなかったと思う。フレッドも、吠えるどころか固まってしまっていたし…… 僕はフレッドに、悪いことをしたという気持ち…
「オレが思うに、一度ロバートの言う通り演ってみたらどうだろう? 1曲だけでいいから。そうすれば彼のやりたいことがわかるし、それが本当にオレ達に合っているのかも、わかるんじゃないか⁉︎」 このトニィの意見を聞いて僕とフレッドは顔を見合わせると、…
「こんなの落ち着いてられないよ! ジェムがそんな奴だったなんて、がっかりだよ」 まるで裏切られたとでも言うようなフレッドの態度に、僕も黙っているはずがない。 「お前こそガキなんだよ。自分の理想ばかり追い求めて、周りの状況が見えてない。ロバート…
feat.Culture Club フレッドのほうもかなり気が立っていた。 「ジェムはロバートのやることに、疑問を感じないの!? 彼の作る音を気に入ってるの?」 「別に、そういうわけじゃないけど……いい時も悪い時もある、そういうもんだろう」 そう、あっさり答えると…
feat.XTC 「だからロバート! この詩の持つ意味をわかってるって言うなら、どうしてここに、そんな音を入れるの⁉︎」 「フレッド、わかってないのは君のほうだ。ここはもっと早いテンポで左右に振り分けないと、新鮮さが失われるだろう⁉︎ 君の音に対する考え…
「ジョージが言ってたんだ。セント・ブライアンズは、たくさんのミュージシャンをバックアップしていて、金銭的に厳しい状態が続いてる。このままだと経営が危ないって。オーナーとウォルターの間も険悪らしい」 全員、言葉を失った。そんな中、フレッドが戸…
feat.Eurythmics それに、スティーブンが言ったんだ。 「私が米国本社に行っている間に、ファーストアルバムの準備をしておいてくれ」 もう遊んでいる暇なんてなかった。ファーストアルバムだからね、やっぱり最高のモノを作りたい! 「おーい、開けてくれ!…
「電話も早かったし、さては振られたな?」 「何とでも言えよマーク。彼女は長電話するタイプじゃないんだ。なのに『全英No.1おめでとう』って、わざわざ電話をくれたんだよ。優しいだろ?」 今ごろ〜⁉︎ なんて突っ込みは聞いちゃいない、デレるトニィ。そ…
朝食を食べにレストランに向かう途中フロントのお姉さんがトニィを呼び止めた。 「先ほど、ルイス・ミッチェル様から、お電話がございまして――」 「えっ、ルイスから⁉︎ ジェム、キー貸して!」トニィは慌てて、部屋へ戻って行った。 The Starlight Night の…