「ジョージが言ってたんだ。セント・ブライアンズは、たくさんのミュージシャンをバックアップしていて、金銭的に厳しい状態が続いてる。このままだと経営が危ないって。オーナーとウォルターの間も危ういらしい」
皆んな一瞬、言葉を失い
フレッドが戸惑うように呟いた。
「ウォルターには、いっぱいお世話になってるし、何か力になってあげられるといいんだけど……」
「俺達にできることって……なんだろう?」
「……とにかく、先ずは良いアルバムを作ろう」
「そうだな!」
トニィも納得し、
僕等は改めて決意を固めた。
それから暫くして、スティーブンが
アメリカからロバート・ネルソンという
プロデューサーを連れて帰って来た。
ロバートはアメリカでも評判の
名うてのプロデューサーだ。
早速、彼に演奏を聴いてもらった。
「うん、なかなか仕上げがいが有りそうじゃないか。思った通り、私の斬新なアイディアを試みるのにピッタリだ。しかし、このベースはクセがあるな……ベース担当は、いないのか?」
皆んなマークのベースを
誇りに思っていたから
この台詞には、カチンときたね。
「えっと、マークはカナダに帰ってて……今回のアルバムには、参加できないんです」
そうトニィが説明するとロバートは
掛けているメガネを軽く押し上げ
フッと鼻で笑った。
「そうか、その方がいいだろう。私の知人のベーシストを呼ぶことにしよう。私に任せておけば、必ずヒットチャートに食い込むモノができる。安心して任せたまえ」
この手の台詞に一番敏感なのも
また、ロバートのような奴と
一番相性が悪いのもフレッドだ。
思えば、このロバートとの出会いが
僕等のつまずきの始まりだった。
先ずは、アルバムに入れる
曲選びからスタート。
僕等バンドがリストアップした希望を
マネージャーのスティーブンと
プロデューサーのロバート、
それからノーマンレーベルの
ヘンリー等スタッフ達がまとめ上げ、
シングル予定の3曲を含む
10曲と予備曲を決定。
そして、プリプロ※作業のため
満を持してスタジオへ。
僕の仮歌に合わせて
トニィのドラムを録音。
授業を終えて駆けつけたヤスと
僕のリズムギターも順調だ。
だけどフレッドの番になると案の定
ロバートと意見を戦わせて
遅々として進まず、まだ1曲も
まとまらない状態だった。