「オレが思うに、一度ロバートの言う通り演ってみたらどうだろう? 1曲だけでいいから。そうすれば彼のやりたがっていることが分かるし、それが本当にオレ達に合ってるかも、解るんじゃないか⁉︎」
このトニィの意見を聞いて
僕とフレッドは顔を見合わせると
勢いよく彼に飛びついた。
「なんてグッド・アイディア!」
「君は僕等の新たなリーダーだ!」
「おい、2人とも離せよ!? 首しめるなって!」
トニィは照れて真っ赤になった。
彼は僕より7ヶ月ほど年下だけど
大柄な体格のせいか
頼り甲斐がある印象だ。
安心できるお兄さんタイプだから
誰にでも好かれる
アメリカン・ボーイなんだ。
そんな彼が、密かに悩みを
抱えていたなんて
この時は思いもしなかった。
僕等に笑顔が戻ると
ロバートも戻って来た。
ヤスは、まだ帰って来なかったけど
取り敢えずロバートの言う通りに
進めることにしたんだ。
ロバートの指示にグッと堪えている
フレッドの耳元で、トニィが囁く。
「オレは君の考えが、正しいと思ってるよ」
一曲まとめ終わった頃
ちょうどヤスが帰って来て
「第三者を連れてきた」
と大きくドアを開けた。
「ヤスが緊急事態だと言うんでね、何事だ?」
スティーブンを見て安堵した僕等は
一緒に仕上がった曲を、聴いてもらった。
スティーブンはノーマンレーベルの
割と近くに立ち上げたばかりの
マネージメント・オフィスで
事務処理をしていたらしく、
書類を片手に耳を傾けた。
気付けば、曲にノッているのは
ロバートただ一人。
彼は自分の仕事に大変満足し
スティーブンに
如何に新しい試みをしたか
得意気に語り始めた。
スティーブンは半分聞き流し
「今日のところは、終わりにしよう」
と告げると
僕等バンドのメンバーだけ
友人が経営しているという
行き付けのパブに
連れていってくれた。
まともな食事は、久し振りだ。
テーブルに付いて
一通り料理を注文すると
スティーブンは溜め息を吐いた。
「弱ったな。こんなはずでは、なかったのに……」