「――感謝祭」
僕等はハッとなった。
そうだった、アメリカでは
サンクスギビング・デーの連休に
なるんだっけ。
「感謝祭に帰ってこないなんて……おば様も、がっかりしてたわよ?」
鋭い視線を向けるルイスに
ビクつくトニィ。
なんだか、この2人からは
甘い雰囲気が微塵も感じられなくて
恋人同士に見えないんだけど……?
トニィはご機嫌をうかがうよう
ルイスに話しかけた。
「あの、夏は会えなくて残念だったよ」
そういえばトニィは
短いサマーホリデーに
LAへ帰ってたんだっけ。
ルイスは無言で、舐めるように
部屋を物色している。
僕等兄弟は固唾を飲んで
2人の様子を見守っていた。
おずおずと喋り出すトニィ。
「ボビーから聞いたよ、バイトしてるんだって? オレにはサマーキャンプで会えないって言ってたけど……」
ルイスが冷ややかにトニィを見る。
「何が言いたいの?」
「……やっぱり怒ってるんだよね? 留年したこと」
「留年――⁉︎」
驚きの声を出した僕等に
ルイスは振り向き、訴えだした。
「1年って言ったのよ⁉︎ この人、ハイスクールを卒業した後、憧れのドラマーが講師をするイギリスの専門学校に留学したいって、1年だけだからって、1年経ったら帰るからって、そう言ってたのに!」
トニィ曰く、その講師の授業と
バンド活動に夢中になるあまり、
音楽理論の出席日数が足りず――
と、いうことらしい。
トニィの両親は呆れながらも
この息子の失態には慣れたもので
引き続き、留学を認めてくれたそうだ。
僕はてっきり、トニィの学校も
僕と同じ3年間※だと思ってたんだけど
じゃあ本当だったらトニィは卒業して
LAに帰ってたってこと?
でも、そしたらバンドは⁉︎
複雑な気持ちでトニィに目をやると
僕の視線に気付いた彼は、慌てだした。
「だからルイス、バンドのデビューのことも含め、ちゃんと話したかったんだ。でも全然、会えなかったから――」
トニィは夏休みから戻って来たとき
マークの(黒歴史な)アルバムを
嬉々として見せてくれたけど、
あれはカラ元気だった⁉︎