EVERYTHING FOR YOU
「写真撮ってくれてる。ほら、ジェムも入って⁉︎」 「えっ、僕はいいよ」 20年もロンドンに住んでいる身としては、今更ライオンと一緒に記念撮影なんて恥ずかしすぎる! 「照れちゃって。ダメ、逃がさない!」 ケイトがクスクス笑いながら腕を絡めて、引き寄…
pick out: The Alan Parsons Project 男のピアスって今は一部の人がファッション感覚で身に付けてるぐらいだけど、昔は男女の区別なくしていたんだって。 例えば夫婦が戦争や仕事で長期間離ればなれになってしまう時、片方ずつ同じピアスを分け合って必ずま…
feat. Wang Chung ケイトの提案で、木漏れ日が眩しいセント・ジェームズ・パークを歩くことにした。 「きれいな所、池も大きいのね」 「ここはロンドンの数ある公園の中でも、一番優雅で人気があるんだ。色々な人が来てるでしょ?」 サラリーマン、犬を連れ…
「ではこれから、ロンドンの正しい観光巡りをします! 準備はいいですか?」と、ちょっと先生風の僕。 「はーい!」と元気良く返事をするケイト。 2人で顔を見合わせ微笑んだ。 先ずはケンジントン・ハイ・ストリートからケンジントントン・ロードへ。左側…
僕はいつもと違い(!)きちんと身なりを整えてから下に降りると満面の笑みで、ケイトが迎えてくれた。 「焼きたてのトースト、カリカリのベーコンエッグ。フライド・トマトにキュウリ、マッシュルーム、ベイクド・ビーンズ、デザートは蜂蜜ヨーグルト。これ…
feat. Wham! そんなウィンク一つ、見つめられるとドキッとしちゃうよ⁉︎ ステイシーに似てるなんて(よく言われる)いつもなら憤慨するところだけど僕はこの、笑顔の素敵な義妹にすっかり魅了されてしまったみたいだ。 ケイトは軽く頭を下げた。 「ブライトン…
溜め息混じりにムクれたと思ったら 「ついうるさく言っちゃうけど、彼に夢を諦めて欲しくなくて……だって私の一番の夢は、彼の小説の挿し絵を描くことなの」 そう照れて、はにかむ彼女のクルクル変わる表情に、僕は目を離せずにいた。 ケイトは勢いで家を飛び…
ケイトが鼻歌を歌いながら手慣れた様子で料理をしてる間に僕は身なりを整えダイニングに降りてくると、まるでレストランのように色鮮やかなパスタとサラダが用意されていた。 そして、美味しくランチをしながらケイトの話に耳を傾けた。 サラサラしたブラウ…
pick out: The Dream Academy なんて羨ましい奴なんだ!まあ、当の本人は迷惑気味で足取りも重く、出かけて行ったけどね。 昨日はバイトの遅番だった僕はもう昼近くなんだけど起き抜けの目を擦りながらコーヒーを淹れにキッチンへ。すると、またチャイムの音…
「実はパティを連れて来てるんだ。後で会ってやってくれないか?」 躊躇うようなサムの台詞に明らかに動揺し、声が上ずるフレッド。 「も、もちろんOKだよ!」 真っ赤になってるフレッドの背中を皆んなでバンバン叩きながらスタジオに向かった。 「おいおい…
大阪公演の後、バンドは再び東京に戻ってきた。今はテレビ局の控え室にいて出番を待っているところ。 この番組は海外からのアーティストも多数出演していて、有り難いことに僕等にもオファーがきたんだ。ま、演奏は当て振り[口パク]なんだけどね。 ヘアメ…
「もう終わりだ、なんて思うなよ?」ヤスが真剣な表情を向けた。 僕はいつまでも歌っているトニィを遠目に 『例え目の前に壁が立ちはだかっても、僕等は決して負けはしない』 そんな歌の意味を噛み締めた―― ★ ★ ★ 清水の舞台から京都の街を一望しているとマ…
feat. Crowded House そして、久々に5人揃ったバンドは思い切り演奏を楽しんだ。 ――ああ、これ、この音と一体感なんだ、求めていたのは! メンバー全員がそれを噛み締めていると確信した。許されるならマークには本当に早く戻って来て欲しい。 「待ってるよ…
「急に連絡よこしてスタジオ貸せって、お陰で予約してたバンドに『機械の調子が悪い』とか何とか誤魔化して、キャンセルさせる羽目になったんだぞ⁉︎」 「サンキュー、ライリー! 分かってんじゃん」 「このクソガキが! 変わらず元気そうじゃねぇか」 スタジ…
feat. Big Country 「仕方ねーだろ」 マークはビッグバーガーを頬張った。 『シャバの旨い飯でも食いに行こうぜ! 社会人のオレちゃんが、奢ってやるよ』 そうドヤ顔で言われて入った店は世界中どこでも安定供給のファストフード……美味い飯? 「フィッシュ&…
「僕は無実だ」もう、説明する気も起きない。 「普段フラフラしてるから、こういう目に遭うのよ! 警察沙汰になるなんて――」 ほら見ろ、息子が無実かどうかなんてどうでもいいんだ。親の顔に泥を塗られたことに御立腹で口角泡を飛ばしている。 「聞いてるの…
feat. Tears for Fears 「動くな! 全員止まれ!」 心配したジョージが、警官を連れて様子を見に来てくれたんだ。 男は裏口から逃げ去り僕はヤスが伸ばした手を掴むと必死に叫んだ。 「病院に早く! フレッドが――」 ◇ ◇ ◇ それから1時間、僕は取調室でイラ…
pick out: Bronski Beat 僕等はセント・ブライアンズの1階入り口までやって来た。 店の看板は外されていたけど外側からは、何ら変わった様子は見受けられない。 扉に鍵は掛かってなかったのでゆっくり寂れた暗い階段を下り地下入口のドアを開けると、甘い異…
feat. The Stranglers 「君達こそ希望の光だ。君達なら世界を手に入れることができると、そう信じている――」 そのままウォルターは静かな寝息を立てた。 僕等はそっと病室を後にするとドクターが待ち受けていた。 「彼は警察が保護してきたんだ。失礼だが君…
「だけど、売った相手が悪かった」 溜め息を吐きジョージは続けた。 セント・ブライアンズを奪ったのは表向きは再開発で暴利を目論む不動産業者だったが、その実バックに付いているのはある闇組織のシンジケートだと噂されている。 ウォルターはセント・ブラ…
feat. Depeche Mode 「実は色々あって、デビューが伸びちゃったんだ」 僕等は事の流れを説明した。 「そうだったのか……まあレーベル側の思惑はともかく、こっちとしては〝Depeche Mode〟じゃないが、掴めるものは掴んでおきたいね。何事にもタイミングという…
feat. Everything But the Girl 「どうぞ入って」 2人はドアを開け僕等をフラットに招き入れるとジョージは、うとうとしているベビーをそっとバスケットに寝かせた。トニィが中を覗き込む。 「可愛いね、男の子? 女の子?」 「男だよ、名前はエリック」 「…
「誰かサポートに入ってもらうとか?」トニィはそう言ってフレッドの顔色をうかがった。 曲はともかく、詩の大半を書いているフレッドには気を使ってしまうみたいだ。 「……僕達の曲を、メンバーじゃない人に弄られるのは嫌だよ。アイディアを盗まれたくない…
pick out: G.I. Orange そら面白い! って皆んなで一生懸命木の箱を振っている姿が笑えるな。外国人観光客が多い京都はおみくじも、ちゃんと英語で書いてあるんだ。 「見ろよこれ?『大吉』だってさ!」マークは引いたおみくじを得意気にヒラヒラさせる。 「…
清水寺、金閣寺、平安神宮 etc.――一日中オフをもらった僕等は待ちに待った二度目の京都見物にテンションを上げていた。 前回プロモーションで来日した時は番組収録を兼ねていたから観光らしい観光はできなかったけど、今日は自由に回れるってことで皆んな凄…
「そんな時間あんのか⁉︎ また強引にプロモ入るんじゃねーの?」 「縁起でもないこと言うなよ!」 〈バサッ!〉 マークを小突いたトニィの振動で僕がシートに置いていた手紙の束が落ちてしまった。それをフレッドが拾いつつ 「またファンレター読んでんの? …
feat. The Cure ゲートに向かって歩き出した2人にフレッドは手を振りながらほっこりとして呟いた。 「なんだかルイス、綺麗になったみたい。穏やかで満たされてる感じ……? きっと好きな人と一緒にいるからだね」 「欲求不満、解消されただけだろ」 鼻で笑う…
「泊めるならジェムん家ちの方が、広くて余ってる部屋あんだろ⁉︎」 そう、ルイスはヤスの家で世話になることになったんだ。 「だって僕の家は基本フレッドと僕の男2人だけだから、いつ始まっちゃってもおかしくな――痛っ!」 僕の下品な冗談にトニィの鉄拳が…
feat. Deniece Williams 甘くキスを交わす2人にいつの間に集まっていたのかギャラリーが〈ヒューヒュー♩〉と口笛を鳴らし、拍手を送っていた。 誰かが 『男の子に声援を送ってあげて!』 [Deniece Williams『Let’s Hear It For The Boy』Released:Februar…
feat. Eighth Wonder 「でも、デビューがどうなるか分からないし……」 トニィはルイスを抱き寄せるも一人前になる見通しが立たないのに軽はずみなことはできないと、頑なだ。 それに関しては僕も気が気じゃなくて気休めも言えずにいたけれど。 「オレが待たせ…