スティーブンを連れてきてくれた
ヤスには感謝するよ。
もし、あの音を聴いた時
スティーブンがいなかったら
僕等だけでは、対処できなかったに
違いない。
フレッドも吠えるどころか
固まってしまっていたし……
僕は心底、フレッドに悪いことをした
という気持ちで一杯だった。
暫くすると、ウェイターがやってきて
スティーブンに電話だと耳打ちした。
重苦しい空気の中、食事を進めていると
電話から戻ってきたスティーブンが
さっきまでとは違った
明るいトーンで話し始めた。
「皆んな、朗報だ! ノーマンレーベル米国本社が、君達に興味を持ってきたぞ。重役広報のレッド・レイノルズが、君達に目を付けたんだ。レッドとは旧知の仲だ。早急にアメリカへ行ってレッドに会ってくる。そして今度こそ、君達にピッタリのプロデューサーを連れてくるよ!」
そうスティーブンは言い残し
食事も早々パブを後にした。
僕はまだ、半信半疑だったけど――
スティーブンがアメリカに行ってる間、
バンドは束の間の休みをもらった。
僕は最近になって
ようやっと手に入れた愛車で
ドライブを楽しんでいた。
ステイシーは我が家のガレージに
フランス産の中古車が置かれているのは
気に入らないみたいだけど
仕方ないよね?
従姉弟のメアリーの旦那、
フランス人のローランドの口利きで
安く手に入れたんだから!
でも残念ながら、まだ女の子とは
ドライブできてなくて
もっぱらフレッドのスーパーへの
買い出しに使われる日々。
あの日も、北風が吹く小雨の中
買い出しから戻ってくると
リビングに見慣れないスーツケースが
無造作に開いて置いてあったんだ。
「マム帰ってきたんだ? これマムのだよね⁉︎ 若く見せたい年頃なんだねぇ」
と目を丸くするフレッド。
パステルピンクのスーツケースの中には
可愛らしいリボンの付いたポーチや
レースのドレスが、散乱していた。
フレッドがステイシーを呼ぶけど
返事は無い。
「また仕事で、すっ飛んでったんじゃないの? あ~疲れた。先にシャワー浴びてくるよ」
僕はバスルームに向かい
少し開いていたドアを開けた、その瞬間
「きゃあーっ‼︎」って悲鳴に
「うわぁーっ‼︎」って僕の叫び声が
重なった。