僕はルイスをなだめなきゃと
変に焦ってしまった。
「大丈夫! トニィとあの人は何でもないよ、害はないよ?」
「あたり前でしょ⁉︎」
彼女は一睨みして
話を続けた。
「それで、トニィからの手紙を頼りに、ここに来てみたの。詳しい住所は知らなかったけど、写真を見せたらタクシーの運転手さんが良くしてくれて」
そういえば、トニィが
まだロンドンに来たばかりの頃、
あちこち写真を撮っていたっけ。
確かに家の前でも
皆んなと写った覚えがある。
フレッドが怪訝な顔をした。
「でも、どうやって家に入ったの?」
「チャイムを鳴らしたら、女の人が出てきたのよ。事情を話したら、中で待ってていいって言ってくれたの。彼女急いでいたみたいで、入れ違いで出て行ったようだけど?」
「やっぱりマム、帰ってきてたんだ」
と呆れるフレッド。
「あの、私とっても疲れてて……ロンドンは凄く寒いし。それで勝手にシャワーを借りちゃったの。ごめんなさい」
塩らしくなったと思ったら、
ルイスは元気よく立ち上がった。
「じゃあ早速、トニィの所まで連れてってよ? あ、その前に、安くて素敵なホテルを紹介して。本当はトニィの所に泊まるつもりだったのに、あの女――! ほら、荷物持って⁉︎」
顔を見合わせる、僕とフレッド。
ちょっと強引な子だなぁ。
本当に、あの穏やかなトニィの彼女?
僕は疑いつつも車のキーを手にすると、
逃げようとするフレッドを捕まえて
3人で家を出発した。
そして、ルイスを観光客に人気の
ホテルにチェック・インさせてから、
トニィのフラットまで
送ってあげたんだ。
◆ ◆ ◆
「ルイス? どうして⁉︎」
トニィの驚いた顔!
口を開けたまま固まっているよ。
それにしても
身長差のあるカップルだな、と
マジマジ二人を見てしまう。
ルイスは困惑しているトニィに構わず
ズカズカと家に上がり込んだ。
大丈夫、
うるさいフラットメイトは留守だ。
僕等もトニィの部屋に入るのは
初めてだけど、
脱ぎ散らかした衣服、
転がってるビールとコーラの空き缶、
ドラムパッドの上には
食べかけで剥き出しのチョコバー、
ベッドの上に無造作に
重なっているのは――
『My VENUS』って派手な見出しで
セクシーな表紙の
ポルノ雑誌じゃないか⁉︎
僕は思わず横に移動し、
ルイスから見えないように
気遣ってしまった!
ルイスは黙って少しだけ窓を開けると
(確かにむさ苦しい)
壁に貼られた家族や二人の写真を
一つひとつ確かめるように眺めながら
一言、呟いた。
ブラック・キャブと呼ばれているロンドン名物のタクシー。かつてはクラシカルな印象の黒いオースチンで、一度は乗ってみたいと憧れました(一回だけ乗れた♩)
ロンドンのタクシー運転手は、町中を熟知しないと難関試験に突破できない、プロ中のプロ。ジェム達の家は高級住宅街にあるので、きっと分かるはず! それにステイシーって、しょっちゅうタクシー使ってる、お得意様な気がするしw