1980s 洋楽★創作物語

舞台は1980年代。ロンドンから来日した、新人バンドのVo. ジェムの目線で描く、日本人少年ヤスもメンバーのバンド仲間や家族との成長物語。UKバンドを中心とした、あの頃のあの曲が登場します。時々イメージ・イラストも掲載!

No.3-013 Believe In

「君達、ドラマーいらないか? 昨日ずっと見てたんだけど、途中でベースの奴が入ってきただろ? オレだってドラムがあったら、飛び入り参加したのに!」

彼は悔しそうに拳を振って
話を続けた。

「君達が此処から出て来たときに声を掛けようとしたんだけど、あっという間に行っちゃっただろ? ずっと気になってて……で、来てみた」

「だからって、何もこんな時間に来なくても」
呆気にとられる僕等を見て
彼は恥ずかしそうに説明した。

「実はフラット・メイトに追い出されたんだ、打音がうるさいって。でもなんだか無性に叩きたくて、此処なら大丈夫かな〜なんて」

彼は頭を掻きながら
自己紹介した。

「オレはトニィ・ダスティ。先月LAのハイ・スクールを卒業して、ロンドンの音楽学校に留学に来たんだ」

「トニィ・ダスティだって?」

突然、後ろから声がした。

「マーク? どうして⁉︎」

僕等は一斉に、驚きの声を出した。

「モニカ……GFの家、この近くなんだ。なんか彼女がヒステリーで、引き上げて来た。そこ、駅への近道」

親指を通りに向けるとマークは振り返り
トニィに向き直った。

「あんた、この前アラジンってバンドのオーディション受けたろ⁉︎ セント・ブライアンズのマスターから聞いてない? オレがマーク・テイラー、よろしく!」

「えっ、じゃあ紹介したいバンドって――」

2人は笑顔で
握手を交わした。

 

こうして、メンバーが勢揃いしたんだ!

 

気付けば日も陰り
短い夏の夜が、始まろうとしていた。
薄い夕闇から覗く月明かりが
僕らを覆い出す。

「なんか……不思議だね?」

フレッドが呟いて続けた。

「だってさ、このスターライト・ルームで、偶然にもメンバーが揃うなんて……出会いは、スターライト・ルームってことだよね? 運命的なモノを感じるな――」

皆んな一様に頷いた。

始めから読む(No.3-001)

 

 元々ロンドンじゃ、そんなに星は見えないと思うんですよ。しかもこの時期は満月っぽくて、全然「Starlight Night(星月夜=月は出てないけど月のように星が明るい夜)」じゃない……
 でも運命の出逢い感は大事!ってことで、無理くりメンバーを集合させました(笑)5人も描くの、面倒臭いんですけどね( ̄∀ ̄)

 

No.3-012 Believe In

そういえば、昨日
慌ててマークに付いて行ったから
門の鍵を閉め忘れていたこと、
今頃になって気が付いた。

僕等が端の方から
恐る恐る様子を伺ってみると
男は荷物をほどき
何かを組み立て始めた。

あれは……練習用のドラムパッド⁉︎

空が橙色に染まる静寂の中
スティックのカウントが鳴り響く。
ぼんやりとした街灯が
スポットライトのようだ。

――なんて、なんて楽しそうに
演奏するんだろう。
まるで本物のドラムの音が
聞こえてくるようで、
すっかり惹き込まれてしまった。

彼の動きが止まると
僕等は迷わず拍手した。

「うわっビビった! 人がいると思わなかった」
彼は驚きの声を上げ
スティックを重ねて振り向いた。

明るいブラウンの小ざっぱりした短髪
瞳はブルーだかグレーだか――
年齢は、僕と同じくらい?

僕は彼に近付き、声を掛けた。

「こっちこそ驚いたよ。こんな時間に、こんな所で、ドラムを練習してる奴がいるんだから」

「そっちこそ、こんな時間に、こんな所に来てるじゃないか⁉︎」
彼はちょっと警戒しながら
片付け出した。

「僕達はいいんだよ。此処は僕達のテリトリーだもん」
このフレッドの台詞を受けて
彼が目を見開いた。

「もしかして君達、昨日の昼間、此処で演奏してた……君がヴォーカルで君はギター演ってた、君はサックスのチャイニーズだね?」

「ジャパニーズだ」
少しムッとするヤス。

「そうなんだ、すまない」

彼は苦笑いを浮かべながらも
少し興奮気味に
握手を求めて立ち上がった。
デカい奴だな!

「君達の演奏、凄く良かったよ!!」

「あ、ありがとう」

そんな彼の様子に戸惑いつつも
僕等は嬉しさを感じた。

始めから読む(No.3-001)

 

 当初は普通にドラムを叩く設定にしてたんですけど、現実を考慮すると21時過ぎてるし、持ち運ぶとか色々ハードル高すぎて断念……ドラマーって大変ですね!

No.3-011 Believe In

feat. The Smiths - This Charming Man

「ジェム、落ち着きなよ⁉︎ 物に当たるのは良くない!」
慌てるフレッド。ヤスも呆れている。

「僕は落ち着いてるよ⁉︎ 君らに八つ当たらないだけ、十分落ち着いてるっ!」

そんな僕にフレッドは
溜め息を吐いた。

「ねえジェム、いい加減あの2人のことは、気にせずいようよ? それに僕、意外だなと思って――」

「何がー⁉︎」
僕は勢いよく振り返った。

「ギルだよ。あの人、普段僕達に関心ないみたいなのに、ちゃんとジェムのこと見てるなって……」

「俺も思った。仕事できる人なんだって、分かる気がする」
ヤスも頷く。

「はぁーっ⁉︎ 2人とも何言ってんの!?」

「要するに、ジェムはマムに似てるってこと! そうやってブチ切れるところが」

ぐうの音も出ない僕に
フレッドは並んで歩き出した。

「僕ね、ギルのこと嫌いじゃないんだ。あの人、変に父親ヅラしないじゃない?『ディス・チャーミング・マン』さ、ゲイじゃないけどね」

The Smiths『This Charming Man』Released:10 October 1983]

 

そう言って、ウィンクするフレッドは
僕よりずっと大人だ。

「それに犬好きだしね」

と微笑するヤスに大きく頷き
ご機嫌なステップで
フレッドは一歩前を踏み出した。

「そうだよ! ティックルは誰のお陰で家にいられるのか、ちゃんと分かってるんだ」 

「まったく、大した奴だよ君は――」
言い終わらないうちに
ドン! とフレッドにぶつかった。

「痛いなぁ、急に立ち止まるなよ⁉︎」

「ねえ、スターライト・ルームに誰かいるよ?」

そう、僕等はいつの間にか
スターライト・ルームまで
足を運んでいたんだ。

「――若い男性? 見かけたこと無い、ガーデンの会員じゃないかも……?」

始めから読む(No.3-001)

 

 ザ・スミスは音楽通の方なら、80年代のUK代表といったらワムやデュランデュランより、彼等の名前を上げそうですね。フレッドもよく聴いてるんじゃないかな?
 英語がサッパリな自分には、モリッシーエスプリの効いた歌詞は解ってないですが、ジョニー・マーのギターが格好イイのは分かるぅ(≧∇≦)


No.3-010 Believe In

「駄目だと言っても、君達はやるだろう? ただ、まだ未成年なんだから、勉強に差し支えない程度にしておきなさい」

「僕は成人[18歳]している」
と言おうとしたら
フレッドが制して笑顔で応えた。

「ありがとうございます!」

仕方なく僕も小声で「どうも」と言い
部屋を出ようとした。
すると

「ああ、それとジェームス」
ミスターが新聞を閉じた。

「9月からの学校が決まったようだが、ビジネスカレッジも検討しておきなさい。ギャップイヤーという手もある。そうすれば就職先の伝は、いくらでも用意できる」

※高校や大学の入学前から就職するまでの間を利用して、ボランティアやインターン、海外留学などを経験するための猶予期間

 

それって音楽関係じゃ
仕事は無いって意味かよ⁉︎
僕は憤慨して応えた。

「それは、ご親切にどうも! でも僕は失業保険を貰いに役所に並ぶんで、ご心配なく」

この国の若者の失業率は、依然
問題となっているのは確かだけど。

ステイシー は呆れたように
首を横に振った。

「失業⁉︎ やめてちょうだい! もう、どんなに教育にお金をかけても、あんたにギルの跡を継ぐ才が無いのは残念よ」

「それはどうかな」

ミスターは珍しく
口の端に笑みが零れていた。
意味が分からないよ⁉︎

「跡継ぎとかそういう話は、あなたの家出した一人娘にでもどうぞ!」

そう捨て台詞を吐いて
家を飛び出した。

「ジェム!」
フレッドとヤスも、追いかけて来た。

ミスターには離婚した前妻との間に
一人娘がいる。
僕より一つ年下で
男と出て行った不良娘と
その時は聞いていた。

「くっそ~むしゃくしゃしてきた! あいつらのせいで……ステイシーの奴、ダッドまで悪く言いやがって」

僕は道端のゴミを
思い切り蹴飛ばした。

始めから読む(No.3-001)

 

 イギリスの夏は、21時でも明るいサマータイム。日中は28℃でも夜になると15〜16℃って、半袖ではちょっと肌寒そう? そういうこと、35年前はすっかり抜け落ちて日本と同じ感覚で設定してしまい、地味に軌道修正することに。逆に「ムカつく」って言葉はまだ無かったのか⁉︎「むしゃくしゃ」と、当時の原文のまま残しましたw

No.3-009 Believe In

僕等は昨夜のステージの余韻が残るまま
バンド名やステージ映えする曲の
アイディアを出し合っていたんだ。
(至って健全でしょ?)

気付けば時計の針は
もうすぐ20時になろうとしていた。

「お腹空いちゃったね? 何か作るよ」

フレッドが立ち上がり、僕とヤスも
手伝おうとキッチンに向かった。

皆んなで作ったサンドイッチを
パクついてると、フレッドの愛犬
ビーグルのティックルが尻尾を振って
おやつを催促してきた。
先住猫のベルは、窓際の定位置で
あくびをしている。

程なくしてドアが開き
ステイシーとミスターが帰って来た。

「え、今日は帰らないはずじゃ……」
僕が軽く舌打ちすると

「予定変更よ。フレッド、ティックルを退けてちょうだい」

あまり犬が好きではないステイシーが
おやつを食べているティックルを見て
眉を潜める。

フレッドがティックルを抱き上げて
ドアを開けると
ヤスと僕も、それに続こうとした。

すると背後から
ステイシーの声が聞こえた。

「2人とも、昨日は遅かったようね? サマータイムだし、まだ日も出ているとはいえ、ジムはともかくフレッド、お前まで――」

ムッとして振り返った僕を
フレッドが、さえぎった。

「ごめんなさい、マム」

ソファの向こうから
ミスターも声を出した。

「まあ男の子だし、たまにはそういう日もあるだろう」

するとフレッドが
僕をチラッと見て口を開いた。

「実は僕達、ロックバンドを結成したんです、ヤスも一緒に。ね、ジェム?」

そんなこと
一々言わなくていいのに!

それを聞いたステイシーは
目を大きく見開いた。

「バンドですって⁉︎ まったく……どうして2人ともアランに似たのかしら」

ほら見ろ
予想通りの反応じゃん。

フレッドは、ミスターの様子を
伺うように目をやった。

「だから今後も、昨日みたいに遅くなることもあるかなって……」

始めから読む(No.3-001)

 

 予告(No.1-003)通りワンコ登場🐾໊ デカすぎず小さすぎず、サッカー好きのフレッドと一緒になって走れる中型犬で……って思い浮かんだのが、スヌーピーのビーグルでした。自分的には豆柴が好みなんですけどね (^^ゞ

 

No.3-008 Believe In

「僕、キーボードなら、少しできるけど?」

フレッドが手を挙げた。
えっ⁉︎

「ダッドと住んでた頃に演ってたバンドの、キーボードだった友達に教わって……あんまり上手くないけどね」

照れ臭そうに答えるフレッド。
キーボード? バンド?
そんなこと、初耳だよ!

「それならジェムもバッキングできるし、曲の幅が広がりそうだな!」

前のめりになるマークを見て
ウォルターが嬉しそうに声を掛けた。

「そういえば、この前ジョン達のバンドのオーディションに、アメリカ訛りのドラマーが来てたな。6.2フィートはありそうな長身で、なかなかの男前だった。ジョン達とはスタイルが違ったけど、君達とは上手くいくかもしれない。連絡してみようか?」

「ああ、頼むよ。オレ、オーディション苦手だからさ」

「マークはジーッと人の演奏を聴いてられないからな。ライブじゃないと、直ぐ飽きちまう」

そう笑ってウォルターは

「君達なら客も呼べそうだな。客が入れば、もちろん出演料を払うよ。期待してる」

と大きく頷き、またステージへと
去って行った。


〝出演料〟


僕は俄然、ヤル気になった!

こうして僕等は
バンド名を考えることを宿題にして
セント・ブライアンズを後にした。

◇ ◇ ◇

次の日、僕はヤスに
家に泊まりに来るよう誘った。
ユミコが昨日から仕事でいないと
聞いたからだ。

僕等の方も、ステイシーとミスターが
いないのを知っていた。

ステイシーは、とうにモデルを辞めていて
ミスターの協力で
美容系コンサル会社を経営していた。

ちょうど僕が荒れてた頃
一波乱あったらしく
確かに僕に構ってられる時期じゃ
なかったようだ。
女性社長に同族企業の取締役と
母と義父は、ご立派なもんだよ!

そんな親のいない間に
少年達が集まって、何するかって?

始めから読む(No.3-001)

 

No.3-007 Believe In

「あのガーデンで演ってたのと、同じでいいんだ。大丈夫、初めは誰だって初心者だ!」

ウォルターがドラムのスティックで
カウントを取ると
マークのベースがルートを刻み
フレッドのギターと
ヤスのサックスで、イントロが始まる。

そして、わずかに震えた僕の声が
マイクを通して、会場中に響き渡った。

気付けばパーカッションやホーン、
コーラスの女性陣までステージに上がり
会場中が踊り出した。

無我夢中で演奏し終わると
僕等は客席から、拍手喝采を浴びた。
ステージを降りると
マークが笑顔で肩を叩いてきた。

「あの反応、聞こえるだろ?」

放心状態の僕等を見て
マークはケラケラ笑い出した。

「おいおい、大丈夫かよ?」

「いいね君達! 今日が初ステージとは思えない。度胸もあるし、マークとの息もバッチリだった。これは結構イケるんじゃないか?」
ウォルターが、マークにウィンクする。 

「だろ? テクニックだけじゃない、オレに負けず劣らずなイケメン揃いで――あっ、これマジ重要な⁉︎ 可能性は無限さっ」

そう言って、マークは得意気に
勢い良く振り向いた。

「だから、オレ達でバンド組もうぜ⁉︎」

この彼の提案に
僕等は二つ返事で OKした。

マークが現れなかったら、今の僕等
The Starlight Night は
生まれなかったんだ!

テンションが上がった僕等は
スタッフ・ルームに集まった。

「先ずはバンド名だな。何かアイディアある?」

咥え煙草のマークが
紙とペンを取り出して続けた。

「ジェムがヴォーカル、フレッドがギターでヤスがサックスか。オレもウォルターのお陰で楽器は一通りできるけど、やっぱベースだよな〜ってなるとドラム探さないと、できればキーボードも――」

始めから読む(No.3-001)

 

 ベースとドラムはバンドの要! でもバンドの成り立ちで、ベースがいなくてギターから転向ってパターン、あるあるな印象が……やっぱりギターが一番人気!? 
 ジェムとフレッド兄弟もダッドへの思い入れからか、どっちもギターは譲らずシーケンサーを買ったみたいですよ? その頃の様子はコチラ

 

No.3-006 Believe In

feat. Kate Bush

僕等はマークに引っ張られ
ステージの正面を陣取った。

先ず、パンクっぽいバンドの
演奏からスタート。
シンプルながらも激しいビートで
掴みはOKだ。

次は女性ヴォーカル。
幼げなルックスの割に
独自の世界観で歌い上げる様は
〝ケイト・ブッシュ〟を彷彿とさせる。

気が付くと、次から次へと
入れ替わり立ち替わり
常連達で盛り上がっていた。

フロアにいる何人かが
慣れたようにステージに
上がっている。
もちろんマークも、その一人だ。

もう、どこまでが客だか
演奏者だか分からない。
ハードロックから弾き語りまで
まるで音の洪水だ。

かつて僕が BAD MOUTH で
演っていた空間とは、全然違う。
これがライブハウスなんだ!

「どうだ? 何でも有りで面白いだろ⁉︎ 今日は『クレイジー・ナイト』。ノンジャンルで片っ端からステージに上がれる、音の細かいことは言いっこなしの、セント・ブライアンズ名物企画なんだ」

ステージを降りたマークが
ビターをグイッと飲み干して続けた。

「ここでは音楽に差別はしない。やる気さえあれば、あらゆるバンドをサポートしてくれる」

現にウォルターは要請されると
ギター、ベース、ドラム、ピアノと
何でもこなしていて、小学校の先生から
ベテランミュージシャンへと
変貌していたんだ。かっこ好い!

「ウォルターは若い頃、バンドデビューの話もあったんだけど、まぁ夢で終わったって……だから自分の代わりに世界の頂点に立つバンドを、発掘したいと思ってるんだ」

そう言って振り向いたマークは
僕等に不敵な笑みを向けた。

「それが自分の従弟だったら、最高だろ?」

「おーいマーク! 準備できたぞー」

ウォルターの呼ぶ声で
マークが僕等の背中を押した。

「行くぞっ!」

慌てたってもう遅い。
僕等は既に、ステージの上だ。

始めから読む(No.3-001)

 

 「ライブハウス」は和製英語で、システムも日本独自のスタイルだって知らなかった! 英語では「クラブ」だけど、それだと日本では違った印象ですよね。
 ケイト・ブッシュさんは TV 番組『恋のから騒ぎ』の OP 曲『嵐が丘』(1978年)が有名なので80年代枠なのか微妙だけど、イギリス女性ヴォーカリスト代表として、ここでは『バブーシュカ』(1980年)をご紹介。ちなみにワタクシ『嵐が丘』って割と長い間、矢野顕子さんだと思っておりました(爆)