1980s 洋楽★創作物語

舞台は1980年代。ロンドンから来日した、新人バンドのVo. ジェムの目線で描く、日本人少年ヤスを含むバンド仲間や家族との成長物語。UKバンドを中心とした、あの頃のあの曲が登場!

No.2-014 Mixd Feelings

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ヤスの部屋は、元おじさんの書斎で
防音にしてあるそうだ。

ヤスが躊躇いながらも
ストラップを首に掛けた。
ピカピカに磨かれた
そのアルトサックスは
埃を被ることなく扱われていた証明だ。

「さっきと同じ3曲メドレーで、最初は――」

「『抱きしめたい』」

The Beatles『I Want to Hold Your Hand』Released:29 November 1963 (UK)]

 

即答のヤス。
なんだ、ちゃんと聴いてたんじゃん⁉︎

フレッドがイントロを奏でると
難なくヤスがメロディーを這わせた。
その響きに飲まれないよう
僕は夢中で、音を追いかけた。

とてもブランクがあるとは思えない
ヤスのサックスは凄かった。

「最高だよ、エキサイティング!」
フレッドも興奮している。

久し振りの演奏で
息が上がっているヤスは
少し悔しそうに見えた。

僕等が気になった箇所を調整しようと
演奏に夢中になっていると
ユミコから夕飯の声が掛かった。
もう、そんな時間⁉︎

僕とフレッドは
遠慮なくテーブルに着いた。

珍しい日本料理の数々に
フレッドは目をキラキラさせ
舌鼓を打つ。
ユミコの作るカラアゲと
オニギリの、懐かしい味!

僕等は、さっきの演奏の反省点や
次はこんな曲を演ろうとか
このカラアゲの作り方は? とか
(フレッドは、かなりお気に召したみたいだ)
話題が尽きなかった。

食事はいつも、フレッドと2人で
家政婦さんの作り置きを
温めるだけだから、
こうして4人で囲むテーブルは
幸せで楽しい時間だった。

ヤスも今までにないくらい
表情が和らいでいる。
そんな息子の様子に
ユミコも目を細めた。

 

その日以来
僕とフレッドは、度々ヤスの部屋で
セッションするようになった。

ヤスも少しずつだけど
色々アイディアを出してくれて
僕等の話も、聞いてくれるようになった。

フレッドもヤスに
だいぶ慣れてきたみたいだ。

「大丈夫、僕等は仲良くやっていける」
僕は自信を持った。

始めから読む(No.2-001)

 

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No.2-013 Mixd Feelings

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「彼、どう変わるかな? 確かにさっきのヤスは、ちょっと可愛かったけど」

このフレッドの台詞に
「可愛いだって⁉︎ アハハッ!」
と声を出して笑ってしまった。

「なんだよ⁉︎」
ブスッとするフレッド。

「だってヤスも可愛いけど、君だって可愛いんだもの」

さっきまで、ヤスにビビっていた
フレッドの姿が目に浮かんだ。

「悪かったね、可愛くて!」

そう言って、拗ねるところが
可愛いんだよ?

だけど、もう一つ付け加えるなら
フレッドは陰険なんだ。
だって夕食の僕のシチューの中に
肉が1つも、入ってなかったんだから!

◇ ◇ ◇

さて、ヤスがサックスを演ると
分かったからには
セッションしない手はないよね?

次の日、僕等は早速ギターを抱えて
ヤスの家に上がり込んだ。

だけどヤスは「NO」の一言で
サッと自室へ消えてしまった。

 

「あの子サックスを習ってたんだけど、主人が亡くなってから辞めてしまったのよ」

ユミコがお茶を淹れながら
落胆する僕等に、笑顔を向けた。

「せっかくギター持って来てくれたんだから、おばさんに何か聴かせてくれる?」

僕とフレッドは照れながらも
喜んで演奏したんだ。
誰かに聴いてもらうのは、嬉しいよね。
ユミコも笑顔で、手拍子している。

3曲目の『シー・ラブズ・ユー』が
終わる頃、視線を感じた。

The Beatles『She Loves You』Released:23 August 1963 (UK)]

 

「ヤス、一緒に演ろう!?」
手を振ってみたけど

「麦茶、取りに来ただけだから」
と相変わらずだ。

そんな彼の態度に
つい煽ってしまった。

「……まさかビートルズの、こんな簡単な曲もできないの? おじさんの腕には、遥かに及ばないってわけだ」

ビートルズくらい合わせてやるよ! キーは?」

作戦(?)成功!
僕等はユミコに促されて
ヤスの部屋へ上がった。

始めから読む(No.2-001)

 

 簡単扱いして申し訳ないですが、そこがビートルズの偉大なるところ。前回、洋盤はコンセプト・アルバムが多いと書いたけど、それをスタンダードにし、ミュージシャンがアーティストと賞賛されるようになったのはビートルズの功績だとか。彼等の偉大さはヒットした名曲が多いから、ってだけではないんですね!

 

No.2-012 Mixd Feelings

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「これが怒らずにいられるか⁉︎ しょっちゅう人の家に上がり込んで、邪魔ばかりしやがって! いい加減にしろクソ野郎!」

「凄い、スラング完璧! Aをあげるよ」
僕は〈ピュー♩〉っと口笛を鳴らした。

そんな余裕ある僕の態度に
ヤスは益々イラつき出した。

フレッドは、ヤスの迫力に
すっかりビビッてしまっている。
そろそろタイムアウトかな。

「じゃあ帰るよ。明日はバイト休みだから、また来るよ」

ヤスは落ち着きを取り戻し
黙って机に戻った。

「……そんな寂しい顔すんなって、明日も楽しみに待っててね? 昔みたいに」

僕がヤスの頭に軽く触れると
彼は思い切り、その手を振り払った。

「二度と来んな!」

「怒った時のヤスって、昔とちっとも変わんないのな? 可愛いい――」

「ジェム!」

ヤスは机をバシッと叩くと
椅子から勢いよく立ち上がり、
僕は慌ててドアを開けた。
これ以上、虐めるのは可哀想かな。

「分かった分かった、出て行くよ」

そして、ドアを閉めながら
ヤスに笑顔を向けた。

「6年振りに〝ジェム〟って呼んでくれて、嬉しいよ」

 


帰り道(といっても、直ぐ隣だけど)
僕は得意気だった。

「今日一日で、すっごい進歩したと思わない?」

フレッドも大きく頷いた。

「うん、驚いちゃったよ。ヤスって『ミスターロボット』かと思ってたのに」

 

 〜♫ドモアリガト ミスターロボット ヒミツヲシリタイ♫〜

[Styx『Mr. Roboto』Released:11 February 1983]

 

――って⁉︎
僕は思わず吹き出した。

始めから読む(No.2-001)

 

 スティクスはUKではなくシカゴ出身のバンドだけど、日本人としてこの曲を入れずにはいられない!(笑)
 外国人が歌う日本語は当時インパクト大で、子供心にふざけた印象を持ってしまったけど、アルバム全体が物語仕立てになっていて、この曲だけを切り取ってしまうのは、彼等にとって不本意だったかと。
 こんな風に昔のアルバムは、まるで一冊の本のようにコンセプト仕立てになってるのが多く、一曲を単品買いする今の時代には新鮮かも? そもそもシングルを集めた日本のアルバムと、アルバムからシングルカットした洋盤では、根本が違いましたね (^^ゞ
 

No.2-011 Mixd Feelings

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その日も

「もう、いい加減にしようよ……」

と言うフレッドを、無理矢理引っ張り
ヤスの家に向かった。

ヤスは相変わらず、自室で勉強している。
最近は僕等が来ると
わざと勉強し出すんだ。

そうなると多少、気が退けるんだけど
ここで負けてはいられない!
僕はニコニコと話しかけた。

「また勉強? ホンと頑張るね」

ヤスは見向きもしない。

「勉強もいいけど、せっかくの夏休みなんだからさ、息抜きくらいしない?」

ヤスは黙々と
ペンを走らせる。

「返事くらい、してくれたっていいんじゃない?」

僕も段々、顔が引きつってくる。
フレッドは諦めムードだ。

まったくヤスの奴
表情一つ、変えないんだから!
毎回こんな調子だと
さすがに嫌になってくるよ……

僕は溜め息混じりに視線を外すと
何かがキラリと光るのに気付いた。

「あっ、サックスだ! もしかして、おじさんの? 懐かしいなぁ――」

奥のチェストの上に置いてあった
サックスに近付こうとしたら

「触るなっ!」

ヤスが怒鳴ったんだ。
僕は思わずニヤッとした。

「やっと喋ってくれたね」

その時の、あいつの顔!
でも、また直ぐ無表情になって
黙ってサックスを片付けてしまった。

僕は試しに
「こっちのケースも一回り小さいけど、サックスだよね⁉︎ これは、もしかして君の?」
と手を伸ばしてみたら

「触るなって言ってんだろ!」

ヤスはやっぱり
感情をあらわにしたんだ。
僕は肩を竦めて
ヤスの表情を伺った。

「別にいいじゃないか、ちょっとくらい見せてくれたって。そんなに怒るなよ⁉︎」

「あ、あの……」
フレッドはオロオロしている。

振り向いたヤスが、キッと僕を睨んだ。

「――怒るなだと!?」

始めから読む(No.2-001)

 

 こらこら、人の物を勝手に触っちゃいかんよ? ジェムってば、好きな子の関心を引きたくて意地悪する典型か⁉︎ そんなんじゃ女の子にモテないよ〜


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No.2-010 Mixd Feelings

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「まあユミコ、うちの子達がいるから大丈夫よ? 安心してちょうだい」

まったく……
外面だけは良いんだから!

ユミコはステイシーの言葉に頷くと
僕に笑顔を向けた。

「本当に、ジェム君お願いします。うちも私とあの子だけで寂しいので、昔のように気軽に来てね?」

ああ、僕はつくづくお人好しなんだ。
そんな風に言われたら
無視するわけに、いかないだろ?

「分かりました、僕に任せてください!」
って胸を張って言ってしまった。

フレッドが、白い目で見ているのは
気付かない振りしておこう……

◇ ◇ ◇

それから3ヶ月
僕は義務教育を終了した。

大学に行くつもりはなかったけど
僕の学校は、18歳までの一貫校だから
そのままシックススフォーム
[第六学年・日本の高校に相当]に進級。
Aレベル[大学入学資格試験]を
目指すよう、ミスターに促された。

具体的な将来のことは
まだ考えてないけど、やっぱり
音楽に関連する道に進みたいので
何かそういったアルバイトをしようと
探し始めた。

すると、どこから聞きつけたのか
ご近所のMs.オコナーから
バイトを紹介されたんだ。

正直、仕事内容は
これじゃない感が強かったけど
まあ、バイト代が良かったし
店長もいい人だったから
目を瞑ることにしたよ。

フレッドの方も
サマーアクティビティ[夏期体験学習]や
フットボール[サッカー]で
忙しいみたいだけど
そこは兄ちゃん権限を利用して(!)
一緒にヤスの家に
顔を出すようにしたんだ。

だけど、当のヤスの反応は
3ヶ月前とまったく同じ。
つまり、僕等に
てんで無関心ってこと。

僕等が話しかけても、徹底無視。

ユミコの顔を立てて
黙ってるんだろうけど
嫌なら嫌っていう感情を
少しは見せてくれてもいいのにさ!

始めから読む(No.2-001)

 

 当時イギリスでは大学進学者は少なくて、義務教育終了後は働きに出るか、職業訓練校(専門学校)に進むのが大半だったとか。90年代に入り専門学校の大学化が進んだそうで、ジェムが進学する音楽専門学校も今は大学になっている、そんなイメージです。

No.2-009 Mixd Feelings

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その後、学校で家庭訪問があり
担任の先生が、おっしゃったんです。

「岡部君は、勉強もスポーツも非の打ち所はありませんが、クラスでの協調性に欠けるようです。虐められている様子はありませんが、特に親しい友人もいないようです」

確かに、あの子の口から
友達の名前が出ることは無かったので
訊いてみたんです。

そしたら

「友達? そんなの必要ないよ。別に誰にも迷惑かけてないし、問題ないよ。それよりお母さん、仕事が忙しそうだから無理しないで」

そう言って、私に気を使わせないよう
振る舞う姿を見て、気付いたんです。

私はあの日以来、あの子が
楽しそうに大笑いしているところも
大声で怒鳴っているところも
ましてや涙なんか、見たことが無いと。

心配になって、カウンセリングに
連れて行ったんですけど
お医者様からは、特に問題無いと
思春期男児、特有のものと
片付けられてしまいました。

それでも気になってしまい
恭章に「従兄弟達と仲良くして」と
親戚の家にお邪魔してみたんですけど
従兄弟達から

「恭章君といても楽しくない。あの子、英語できるからって、僕達のことバカにしてる」
と言われてしまい……

実際、恭章を見ていたら
〝自分が合わせてあげている〟って
態度なのは、明らかでした。

 

私と主人は、恭章の教育は母国で
と思い、日本に帰国しました。
でも、こんな調子では
イギリスで生活した方が
あの子のためになる気がして、
それで戻ってきたんです。

◇ ◇ ◇

ひとしきりユミコの話を聞いて
親身になったステイシーが
とんでもないことを言い出した。

始めから読む(No.2-001)

 

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 モノマネするなら〝懺悔〟の方なんじゃないかと思ったけど、番組当初のこの頃は、まだ懺悔はやってなかったみたいです。なんてウロ覚えなのは、自分もそんなに観てなかったから。〝欽ちゃん派〟だったもので (^^ゞ

No.2-008 Mixd Feelings

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「まったく……惜しい奴を亡くしました」

K氏は恭章が抱えていた
主人のサックスに目を止め
話しを続けました。

「その箱、例のラッパかな? 奴はバカが付く程、ラッパ好きだったからなぁ。インテリ風にジャズばかり聴いて……まあ腕前は中々のようだったし、メディアじゃなく楽団にでも入れば良かったんですよ。そしたら、こんな目に遭わずに済んだのにねぇ。でもきっと、あの世で楽しくラッパを吹いてますよ」

K氏の笑顔に戸惑っていると
恭章が突然、立ち上がったんです。

「これはサックスって言うんだ! バカなのは、おじさんの方だ!」

あの子が怒鳴ったのを
初めて見ました。

周りがヒソヒソ言い出すと
K氏は真っ赤になって
立ち去りました。
 
後程、この様子を見ていた
主人の後輩の方から聞いたんです。
実はK氏は、昔から主人を嫌っていたと。

主人が犠牲になった原因は
K氏を庇ったからだとか
K氏の判断ミスだとか
噂になっていると。

なのに栄転となったことを
主人を慕ってくれていた彼は
悔しそうに、話してくれました。

正直、ショックでしたよ。
私も主人から、K氏の話は
よく聞いていたので……

それを恭章は、陰で聞いていたらしく
私に言うんです。

「お母さん、僕あの人のこと許せないよ。だってお父さんの親友だったんでしょ⁉︎ 親友ってあんなものなの?」

私はあの子の素直な感情に、涙が溢れ
抱きしめるばかりでした。

その後は恭章の口から
K氏の話が出ることもなく
日々が過ぎていきました。

始めから読む(No.2-001)

 

 内容的に挿絵は必要ないと思ったけど(お葬式だし)ふと父と一緒で嬉しそうな小学生ヤスのイメージが湧いたので、急きょ描いてみました。もうすぐ父の日だからかな?
〝パパ大好き〟って抱き付いて甘えるジェム(No.1-022)と違って、静かにはにかむ感じが、日本人ぽいしヤスっぽいw

No.2-007 Mixd Feelings

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フレッドが淹れた
グリーンティーを味わうユミコの姿は
以前はもっと、ハツラツとした
印象だったけど
今はどこか寂しげだ。

仕事がオフだったステイシーと一緒に
僕等はユミコの話を聞いた。

それでヤスが
すっかり冷めた少年になった理由が
分かったんだ。

 

「2年前、主人は仕事で某国へ行ったんです。ええ、紛争の取材で……亡くなったんです、主人は――」

ユミコの声が、わずかに震えた。

僕等は口々にお悔やみを述べた後
僕はつい、言ってしまった。

「だからヤスは、あんなイケスカな……んっ!」
フレッドに小突かれ、口を改めた。

「――ヤスはおじさんの死が、凄くショックだったんですね?」

「本当に、昨日はごめんなさいね……ただ、あの子のあの態度には、別の要因もあると思うんです」
ユミコは語り始めた。

◇ ◇ ◇

あの子は……主人も私も
ずっと仕事をしていて
しかも一人っ子だったせいか
もともと大人しく、手も掛からず
引っ込み思案でした。

今思うと、友達らしい友達は
ジェム君ぐらいだったわ。

日本に戻ると、早く日本に馴染めるように
公立の小学校に通わせたんですけど
言葉の壁もあり
なかなか難しいようでした。

見兼ねた私は
たまたま近くに住んでいた
イギリス人夫婦の経営する
英語塾に通わせて
ようやっと恭章に、笑顔が戻りました。

そんな中、主人を亡くして……

 

あれは主人のお葬式の時でした。

式が終わり、私は関係者の方々に
挨拶をしていました。

そこに、主人の長年の親友で同僚の
K氏がいらしたんです。

始めから読む(No.2-001)

 

 当時想定していた紛争は某アラブ国ですが、同時期に他に何があるか調べてみると、中東、アフガン、中央アメリカと絶え間なく――そして、もう21世紀になったというのに変わらない世界は、痛ましい限り……