溜め息混じりにムクれたと思ったら
「ついうるさく言っちゃうけど、彼に夢を諦めて欲しくなくて……だって私の一番の夢は、彼の小説の挿し絵を描くことなの」
そう照れて、はにかむ
彼女のクルクル変わる表情に、
僕は目を離せずにいた。
ケイトは勢いで家を飛び出したものの
ずっと友達の家にいるわけにもいかず、
だからといって祖父母の元に戻れば
アシュリーと住むことに
理解を示してくれた
2人に心配をかけてしまう――
そう駅のベンチで悩んでいたら、
偶然ステイシーに会ったそうだ。
「事情を話したら『ギルは今NYでいないから、家にいらっしゃい』って言ってくれて」
ステイシー の奴、
自分も家にいないくせに
相変わらず勝手だよな!
「ステイシーって素敵な女性よね? 初めて会った時も彼女は私を子供ではなく、レディとして接してくれて……若くて綺麗でお母さんというより、お姉さんができたみたいで嬉しかった」
うーん、今のは
聞かなかったことにしよう。
「君の実のお母さんは、どうしてるの?」
僕の問いに、ケイトは
ちょっと考えながら答えた。
「さあ、私は母を知らないの。母は、ギルと結婚する前に付き合ってた恋人と出て行ったって、そういう噂はどこからか耳に入ってきたけど……」
それは彼女が、まだ2歳頃の話だ。
祖父母が高齢になってから生まれた
一人娘の失態をカバーするように
愛情深く育ててくれたお陰で
ケイトは母親というものを
特に意識せず過ごしてきたと、
優しく穏やかな祖母が
実の母以上の存在だと微笑む。
ケイトも両親からの愛を得られず
育ったんだ……でも彼女の祖父母は
とても慈しんで育てたのだろう。
彼女の明るい笑顔が
そう思わせるのに十分だった。
「私が来ること、ステイシーから聞いてなかったのよね? もしかして迷惑なんじゃ――」
心配そうなケイトに
笑顔で答えた。
「ステイシーは充てにならないって、覚えておいた方がいいよ? 僕としてはミスターとステイシーが結婚した時、君もこっちに住めば良かったのにって思うぐらい歓迎してる」
僕等は改めて
握手を交わした。
「ふふ、そうね。お義兄さんが、こんなに素敵だって知ってたら、こっちに来たかもね?」
「そんなお世辞は、いらないよ」
分かっていても
つい、ニヤけてしまう。
「あら本当よ⁉︎ さっきチャイムを鳴らす時、正直ちょっと緊張してたんだけど、王子様が出てきたから舞い上がったもの!」
「王子様⁉︎ 起き抜けで無精髭の?」
そりゃ昔は美少年と
持て囃されたこともあったけど、
さすがに20歳ともなれば
王子様と呼ぶのは無理あるでしょ?
「そんなことないって! そうしてちゃんとシャツを着てると、ステイシーに似て美人さんなのは間違いナシね」
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