ケイトが鼻歌を歌いながら
手慣れた様子で料理をしてる間に
僕は身なりを整え
ダイニングに降りてくると、
まるでレストランのように
色鮮やかなパスタとサラダが
用意されていた。
そして、美味しくランチをしながら
ケイトの話に耳を傾けた。
サラサラしたブラウンのロングヘア。
瞳はミスターと同じグレーだけど
彼には、さほど似ていないと思う。
(良かった!)
声の感じが少しだけ
メアリーに似てるかな……
「私ね、ブライトンに程近い、祖父母の家に預けられてたの」
祖父母はミスターの両親ではなく
母方の方だという。
「小さい頃から絵を描くのが好きで勉強はそっちのけだったから、16歳になるとギルがチューター[家庭教師]を頼んだのね。それが大学生だった彼、アシュリーとの出会い」
一人っ子の少女が
知的で、優しく話を聞いてくれる
年上の男性に恋するのは
自然なことだった。
アシュリーの方も、素直で明るい
彼女に惹かれたのだろう。
「彼は就職したロンドンの職場が合わなくて、今はこっちでバイトしながら夢だった小説家を目指してるの。私もイラストレーターになりたくて、お互い夢に向かって励ましあってきたわ」
ケイトはブライトンにある
制作事務所と縁ができ、
シックススフォームを卒業すると
仕事をもらえるようになったそうだ。
ブライトンは海辺のリゾート地で
観光客向けのパンフレットや
他に子供向けカット描き等の依頼が
次々と入ってくるという。
すると次第に生活が不規則になり
高齢の祖父母に迷惑をかけたくないと
ブライトンに住むことを決め、
アシュリーとのルームシェアは
当然、父ギルバートの逆鱗に触れた。
「大学にも行かず男と暮らすなんて! って、私は勘当の身ってわけ。でも私のこと祖父母に任せっ切りで、アシュリー※も名前だけで女子大生だと思い込んだクセに彼に会おうともせず、今さら大騒ぎで父親面されてもね⁉︎」
そりゃ定職に就いてない男とじゃね?
初めてミスターに同意するよと
肩を竦める僕に、ケイトは
ふくれっ面を見せた。
「でも彼、家事は完璧なのよ? さっきのパスタも彼のレシピだし、締め切り前は徹夜になる私をサポートしてくれて、凄く助かってるんだから!」
「アシュリーって奴は、随分と愛されてるんだなぁ」
やっかみ半分、表情をうかがうと
彼女は顔を曇らせた。
「でもね、喧嘩しちゃった……せっかく私の誕生日を、お祝いしてたのにね」
彼女は一つ下だから
19歳になったばかりか。
「だって彼、ちっとも小説を書こうとしないの! なかなか認められないから、くすぶる気持ちは分かるけど――」
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