「もう終わりだ、なんて思うなよ?」
ヤスが真剣な表情を向けた。
僕はいつまでも歌っている
トニィを遠目に
『例え目の前に壁が立ちはだかっても、僕等は決して負けはしない』
そんな歌の意味を噛み締めた――
★ ★ ★
清水の舞台から京都の街を
一望していると
マークがサングラスを外し
眩しそうに呟いた。
「ウォルターに見せたかったな……」
あれからカナダの更生施設に
入ったウォルターは
身体はすっかり回復したものの、
依存を断ち切るための治療は
続いているそうだ。
でも、その施設で出会った
10歳も若い看護師さんと
ステディな仲になり、
ボランティア活動に力を入れて
充実した日々を過ごしているという。
「その方が、ウォルターらしいだろう?」
そう笑顔を見せるマークの隣で
ふと思い出す。
「そういえばウォルターって、日本好きだったよね? よくヤスに色々聞いてたっけ……あのまま元気だったら僕等の日本公演に、一緒に来てたりして⁉︎」
「日本どころか世界中、付いてきただろう。そのために、あいつはオレに『世界一のミュージシャンになれ』って言ってたようなもんだ」
「それが彼の夢、そして僕等の夢?」
「夢で終わらせねーよ!」
お互い顔を見合わせ、強く頷いた。
その夢が、一歩一歩
確実に近付きつつあるんだ。
「おーい、ちょっと集まってくれ」
振り返ると手招きしている
スティーブンが見えた。
「え⁉︎ なんだ?」
皆んなスティーブンの回りに集まると
日本のスタッフ達と輪になって
何やら話し込んでいたヘンリーが
コホンっと咳払いを一つ。
「あ〜タナカさんから連絡が入った。明日の取材先が、どうしても都合が付かなくなってしまったため、急きょ取材を受けに今からホテルに戻る」
「「えーっ !!」」
一斉にブーイングの嵐。
今日は一日、観光の予定
だったじゃないか!?
「これが夢の現実の姿か……今日は大吉のはずなのに、何で? 何でだ⁉︎」
プロモ嫌いのマークが天を仰ぐ。
すると、ヤスが振り向いて言うんだ。
「これは俺の凶のパワーのせいだ。ここは日本だから、日本人の俺の影響が強く出た。諦めろ」
「マジか⁉︎ ニホン怖ぇーな」
固まるマークに、ヤスは
ジョークだって言ってるけど……
なんで真顔なんだ⁉︎
恐るべし、エキゾチック・ジャパン!
……To be continued