「ジェム、連れてきたよー!」
10月のハーフターム[学期中の中休み]
に入ると、僕等は
スターライト・ルームに集まった。
サックスの入ったケースを抱えた
フレッドの後ろに、ヤスがいる。
「おい、いい加減に返せよ⁉︎」
ヤスは呆れ顔だ。
やっぱり、フレッドに頼んで正解だ。
僕が連れてこようとすれば
ヤスは頑なになるからね。
僕は2人に
大きく手を振った。
「ヤス覚えてる? スターライト・ルーム」
ヤスは軽く頷くと
思い出したように訊いてきた。
「そういえば、メアリーはどうしてる?」
フレッドがギターの準備をしながら
笑顔で答えた。
「メアリーは結婚して、今はフランスなんだ。ジュディって女の子がいるんだけど、もうすぐ男の子も生まれるんだって!」
フレッドは、弟分ができるのを
楽しみにしてるみたいだ。
演奏の準備が整うと
僕は声のトーンを上げた。
「それでは聴いてください。マイ・フェイヴァリット・シングス!」
リズムマシンのカウントがスタートし
僕等のバッキングが始まる。
ここまでは、前回と一緒。
そしてAメロと共に
僕の声が重なる――
~♫ バラをつたう雨だれや子猫のひげ、ピカピカに磨かれた銅のやかん、暖かい羊毛のミトン手袋、紐で結ばれた茶色の小包、それが私のお気に入り ♫~
驚きの表情のヤス。
僕はそのまま
歌詞を変えて歌い続けた。
~♫ クールを装う13歳の少年、さり気ない優しさ、プレッシャーに立ち向かう姿、彼の奏でるサックスの音色、それが僕のお気に入り ♫~
そう、歌うことで僕は
ジャズのグルーヴを会得できたんだ!
程なくして間奏に入ると
人質(?)にしたサックスを
ヤスに渡して叫んだ。
「次のリードは君だ!」
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