「まあユミコ、うちの子たちがいるから大丈夫よ? 安心してちょうだい」
まったく……
外面だけは、いいんだから!
ユミコはステイシーの言葉に頷くと
僕に笑顔を向けた。
「本当に……ジェム君、お願いします。家は私とあの子だけで寂しいので、昔のように気軽に来てね?」
ああ、僕はつくづくお人好しなんだ。
そんな風に言われたら
無視するわけには、いかないだろ?
「わかりました、任せてください!」
と胸を張ってしまった。
フレッドが、白い目で見ているのは
気付かない振りをしておこう……
◆ ◆ ◆
それから3ヶ月、
僕は義務教育を終了した。
大学に行くつもりはなかったけど
僕の学校は、18歳までの一貫校だから
そのままシックスフォーム※に進級。
Aレベル[大学入学資格試験]を
目指すよう、ミスターに促された。
具体的な将来のことは
まだ分からないけれど、やっぱり
音楽に関連する道に進みたいと思い、
そういったアルバイトを探し始めた。
すると、どこから聞きつけたのか
ご近所の Ms.オコナーから
バイトを紹介されたんだ。
正直、仕事内容は
これじゃない感が強かったけど
まあ、バイト代が良かったし、
店長もいい人だったから
目を瞑ることにしたよ。
フレッドもサマーアクティビティ
[夏期体験学習]や
フットボール[サッカー]で
忙しいみたいだけど、
そこは兄ちゃん権限を利用して(!)
一緒にヤスの家に
顔を出すようにしたんだ。
だけど、当のヤスの反応は
3ヶ月前とまったく同じ。
つまり、僕等に
てんで無関心ってこと。
僕等が話しかけても、徹底無視。
ユミコの顔を立てて
黙っているんだろうけど、
嫌なら嫌っていう感情を
少しは見せてくれてもいいのにさ!
当時イギリスでは大学進学者は少なくて、義務教育終了後は働きに出るか、職業訓練校(専門学校)に進むのが大半だったとか。
90年代に入り専門学校の大学化が進んだそうで、ジェムが進学する音楽専門学校も今は大学になっている、そんなイメージです ('ー ')