「ライブってさ、何度演っても緊張する。ライブがある日は、ベースに触ってないと落ち着かないんだ。オレ、こう見えてナイーブだから」
ナイーブかどうかは兎も角
案の定だ。
「おーい、マーク! 午後から取材があるって聞いてるだろー?」
客席側から大声を出して
ぶんぶん手を振ると
「うわっ、ジェム!? 今、今出ようと思ってたんだ」
マークは慌てて
ステージを飛び降りた。
僕はスタッフに
「マークを捕まえたと連絡しておいて」
と頼み、待たせていたタクシーに
マークと2人で乗り込んだ。
「あっ、やべぇ! ベース放り出してきた、戻んねーと」
「大丈夫だって。日本のスタッフは優秀だから、ちゃんとしてくれてるよ」
そして、マークの肩を
押さえながら続けた。
「本当は取材が嫌で、サボりたいんだろ⁉︎」
「あっ、バレた⁉︎」
お互い顔を見合わせて
ニヤッとした。
タクシーの運転手が
後ろの挙動不審な外人を見て
困った顔をしてるよ!
★ ★ ★
僕とフレッドとヤスが
セッションするようになって
もうすぐ2年。
16歳になったフレッドは、9月から
シックススフォーム[高校]へ。
ヤスは15歳で、既にOレベル
[一般教育終了試験]対策を開始。
そして僕は18歳。
Aレベル試験を無事終えて、卒業。
ステイシーの小言を無視して
音楽系のカレッジ[専門学校]に
進学を決めていた。
そのタイミングで、バイト先の店長が
知人のレコーディング・スタジオでの
雑用的なバイトを、紹介してくれたんだ。
僕がスイーツショップを辞めるのは
惜しんでいたけど
僕の音楽への道を、後押ししてくれた。
なので以前ほど
3人でセッションすることは
少なくなったけど
それでも、今日みたいな陽気のいい日は
スターライト・ルームに集まった。
この2年の間
新しいアンプや機材も揃えて
演奏のバリエーションも
増えていた。