「だけど、売った相手が悪かった」
溜め息を吐き
ジョージは続けた。
セント・ブライアンズを奪ったのは
表向きは再開発で暴利を目論む
不動産業者だったが、
その実バックに付いているのは
ある闇組織のシンジケートだと
噂されている。
ウォルターはセント・ブライアンズを
最後まで守ろうとしていたけど
度重なる営業妨害に
客も出演者も離れてしまい
抵抗虚しく、彼等のいいように
扱われているという。
「オレは音楽から離れてしまったし、もう駅の向こう側に行くこともないから、この目で確かめたわけじゃないが……」
とても信じられない話だった。
ウォルターは、今どうしているのか?
なぜ連絡が付かないのか?
僕等の気を察したジョージが
「今度パブで常連達に会ったら、ウォルターのこと聞いてみるよ」
と連絡先を交換してくれた。
僕はバイトの時間が迫っていたので
ジョージとアンに礼を言い、
ひと先ずトニィと一緒に
イースト・エンドを後にした。
ジョージの話は、直ぐ
フレッドとヤスにも伝えた。
とてもライブどころでは
なくなってしまった。
ウォルターのことが気になりつつも
イースター休暇も終わり、
なんの手立ても思いつかないまま
日常が過ぎていった。
そして、また冬に戻ったような
冷たい北風が身にしみた
あの日――
「それ……本当か?」
呆然となる僕とヤスを
フレッドがせっついた。
「ジョージが電話をくれたんだ。とにかく病院に行こう!」
家を飛び出し病院に着くと、
入り口でジョージが待っていてくれた。
「トニィには連絡が付かなくて、フラットメイトの女性に伝言を頼んでおいた」
僕等は受付で面会を申し出るも
面会謝絶だと言われ困っていると、
丁度タイミングよく
担当だという若い医師が通りがかり
声を掛けてくれた。
「今は薬が効いて落ち着いている。あまり時間は与えられないが――」
医師がドアを開くとそこには
別人のようになってしまった彼が居て、
その姿を見ても
にわかには信じられなかった。
ウォルターがドラッグ中毒で
入院するなんて!
「……ああ、とうとう君達に知られてしまったか。こんな恥ずかしい姿を、見せたくはなかったよ」
そう弱々しく話すウォルターに
皆んな言葉も無く、ただ強く
彼の手を握りしめた。
あちこち怪我の手当ても
されていて、とても痛々しい。
「君達のデビューアルバムは、もうできたのかい? プロモーションで忙しいだろうに、わざわざ来てくれるなんて申し訳ない……」
そして、遠い目をして呟いた。
自分的には『トレインスポッティング』を観ても胸糞でしかなかったので、愛する息子達がドラッグの恐ろしさを実感するよう、大人に犠牲になってもらいました。ごめんね、ウォルター(>人<;)