僕はヤスの頭を、軽く小突いた。
「まさか学校の女の子にも、あんな態度じゃないだろうね? そんなんじゃ彼女できないよ!?」
「あんなウザイ女に比べたら、クラスのお喋りな女子達の方が、まだマシじゃん」
ヤスの奴、鼻で笑ってるよ。
そして勢いよくドアが開き
トニィとルイスが戻って来た。
何か揉めてるみたいだ。
「もう知らない、トニィのバカ!」
「とにかく最初の予定通り、明後日の便で帰るんだ!」
珍しくトニィが大声を出し、
僕は慌てて2人の側に駆け寄った。
「どうしたんだよトニィ、ルイス泣いてるじゃないか⁉︎ ルイス、両親にOKもらえなかった?」
ルイスは首を横に振る。
「ママは理解してくれたわ。でも私、もうお金が……ホテルに泊まり続けるだけのお金が無いの。だから、トニィのフラットに泊めてって言ったんだけど――」
それを聞いたフレッドは
肩を竦めてみせた。
「ああ、それは厳しいね? あのトニィのフラットメイトが、OKするとは思えないもん」
するとトニィは
躊躇いがちに口にした。
「実は彼女……昨日から留守なんだ。1週間ほど出張だって」
「なんだ、だったらいいじゃないか⁉︎ 彼女の部屋にさえ入らなきゃ分かんないよ。どうせ2人、同じベッドでいいんだし」
揶揄うような口調の僕に
トニィは怖い顔を向けた。
「そんなこと、できるわけないだろ⁉︎」
「そうだよジェム、女性の勘は侮れないよ? キッチンだって直ぐ分かっちゃうんだから! 絨毯の髪の毛もよーく掃除しておかないと、バレたらトニィが部屋を追い出されちゃうよ⁉︎」
フレッドが口を尖らせる。
「そういう問題じゃないんだ……」
顔を覆うトニィ。
ルイスは鼻を啜りながら
説明した。
「違うのよ? トニィは私と一緒に住むこと自体、躊躇してるの。場所の問題じゃないの」
僕はルイスの言っている意味が
分からずトニィに目をやると
彼は珍しく焦り出した。
「オ、オレは、君の両親の信頼を裏切るようなことは、したくないんだ」
「パパもママもお姉ちゃん達も、私がわけ分かんない安宿に泊まるぐらいなら、息子同然のトニィと一緒の方が何倍も安心するわよ!」