feat. Everything But the Girl
「どうぞ入って」
2人はドアを開け
僕等をフラットに招き入れると
ジョージは、うとうとしているベビーを
そっとバスケットに寝かせた。
トニィが中を覗き込む。
「可愛いね、男の子? 女の子?」
「男だよ、名前はエリック」
「ギターの神様と同じだね⁉︎ 将来はジョージパパを超える、名ギタリストになるかな?」
僕の台詞に、ジョージは軽く
微笑んだ。
「できればコイツには、真っ当な道を進んでもらいたいけど」
「あら、私達は真っ当じゃないって言うの?」
アンは呆れながら
ティーポットとカップのセットを
テーブルに置いた。
僕からすれば、2人は
〝Eurythmics〟や
〝Everything But the Girl〟に
引けを取らない、最高のデュオだ。
子育てが落ち着いたら
またステージに戻ってきて欲しいな。
するとベビーが、パパママ以外の
気配を察して不安になったのか
ぐずり出してしまい、
アンはベビーを抱き上げると
子守唄であやし始めた。
彼女の歌声は
〝トレイシー・ソーン〟のような
少し気怠く、低音の落ち着いた響で
ずっと聴いていたくなる
心地良さなんだ。
ジョージが慣れた手つきで
次々とカップにお茶を注ぎ
渡してくれた。
「息子が将来どんな道を選ぶかは分からないけど、オレはコイツのためならどんなサポートでもするつもりだ」
「じゃあ、しっかり稼いでもらわないとね!」
頼もしい夫の発言に
茶々を入れるアン。
ジョージは肩を竦めつつも
温かな目をベビーに向けた。
「オレはラッキーだったよ。この辺りのドックランズ[港湾施設]が次々と閉鎖され、失業者があふれた時期は最悪だったけど、今は大規模な再開発計画が進んでいる。どんどん高層ビルが建設され、お陰でオレが入社した会社も景気がいい」
治安の悪さで名を馳せた下町にも
高層ビルが建ち並ぶと
そこへシティから大企業が
集まってくるそうだ。
「だから息子が大きくなる頃には、この街は貧困から抜け出し、活気づいてるはずだ」
ジョージの目はベビーを通して
そう遠くない未来を見ているようだ。
そして、僕等の方に向き直ると
思い出したように続けた。
「そういえば、あのライキーで演ったんだって? デビューも決まったそうじゃないか。素晴らしいよ、おめでとう!」
僕とトニィは、ちょっと困ったように
顔を見合わせた。
彼らの初期で有名な曲は『カム・オン・ホーム』(1986)、『ドライビング』(1989) 辺り? 自分はデビュー時のネオ・アコースティック・サウンドが好きだったので『イーチ・アンド・エブリ・ワン』(1984) をご紹介♩
Everything But The Girl - Each and Every One