1980s 洋楽★創作物語

舞台は1980年代。ロンドンから来日した新人バンドのVo. ジェムの目線で描く、日本人少年ヤスもメンバーのバンド仲間や家族との成長物語。UKバンドを中心とした、あの頃のあの曲 (YouTubeリスト参照) が登場します。イメージ・イラストも掲載中!

No.3-018 Believe In

帰り道、ずっと黙り込んでいたヤスが
意を決したように口を開いた。

「ジェム、頼みがあるんだけど」

僕とフレッドはその足で
岡部家に向かった。

 

「あら、2人とも久し振りね?」

笑顔のユミコが、出迎えてくれた。

ユミコの淹れてくれたお茶で
喉を潤すと、Club1000 での
ライブの話を切り出し
ヤスの出演許可を求めた。

「そう、あの Club1000 で……」
ユミコは感慨深げに頷くと
ソファに沈んでいる、神妙な面持ちの
息子を見つめた。

ユミコの意外な反応に
僕は意表を突かれた。

「Club1000、ご存知でしたか?」

「まだ結婚する前ロンドンに来た時、主人と何回か行ったことがあるのよ。あそこはジャズのライブでも有名だものね」

ユミコの話に、ヤスも驚く。
どうやらOKをもらえそうだ。

「その思い出のステージに立つ息子さんを、ぜひ見に来てください!」

僕の言葉に、ユミコは軽く微笑むと
立ち上がってヤスの隣に腰を下ろした。

「恭章、何を悩んでいるの?」

ビクっとしたヤスが
一瞬こっちを見て、直ぐ視線を外し
ぽつぽつと話し出した。

「サックスを吹くのは好きだ、ステージに立つのも楽しい。でも去年バンドを始めた時、こんな大ごとになるなんて思わなかった」

それを聞いて、焦ってしまった。
ヤスが躊躇っていたなんて
思いもしなかったんだ。
さすが、母は何でもお見通しだね。

ヤスは小さく口を開いた。

「正直……怖いんだ。怖いのは、ステージに立つことじゃなくて――」

物事が、自分が納得するより
早く進んでいくこと、
そこに皆んなの将来や責任が
伴っていることに気付いてしまうと
16歳の少年からすれば
戸惑う気持ちも、確かに分かる。

でも僕等は、もう
ヤスを手放すことはできない。

始めから読む(No.3-001)

 

 Club 1000 のモデルは『100 CLUB』。60年代まではジャズクラブとして、70年代はパンクロックの火付け役となった、ロンドンの老舗ライブハウスです。
 写真は90年代前半、初めてのロンドン旅行で撮影した『100 CLUB』の看板。絹目のプリントをスキャンしたので、よく見るとボコボコしてるのが、また懐い!(≧∇≦)