その頃のヤスは、とても大人しくて
彼の母、ユミコのスカートの影から
おずおずと挨拶したのを覚えているよ。
大きな黒目で、たどたどしく
英語を話すヤスが可愛くて
弟のフレッドを思い出させたっけ……
ヤスは僕が学校から帰るのを
心待ちにしていたから
ヤスの家に行くと、ユミコがいつも
温かく迎えてくれたんだ。
ユミコは在宅で
翻訳の仕事をしていて、
たまに通訳の依頼で家を開ける時は
ヤスを僕の家に預けることもあった。
Mrs.ジョーンズも、メアリーも
ヤスをとても可愛がっていたよ。
ヤスも、Mrs.ジョーンズの焼くスコーンと
メアリーが読んでくれる絵本を
とても気に入ってたみたいだ。
(ちょっとヤキモチ焼いた僕が泣かせたことは、忘れてるといいけど!)
ヤスのお父さんは
アメリカの大学を出て
大手メディアに所属。
世界中を駆け回っていたそうで
滅多に家にいることは無かった。
ヤスのお父さんの記憶は
僕にはもう、ほとんど無い。
ただ一つ、鮮明に覚えているのは――
◇ ◇ ◇
僕が8歳で、ヤスが5歳の頃。
いつものようにヤスの家に行くと
珍しく家に居たおじさんが
サックスを吹いていた。
ヤスがサックスを吹くのは
もちろん、父親の影響だ。