「……悪かったよ。ちゃんと家に帰る」
と両手を挙げてみせた。
そうなんだ、フレッドのお陰で僕は
この泥沼から抜け出せたんだ!
するとフレッドは、少し照れながら
握手を求めてきた。
「改めてよろしく。ええっとジェームス・サミュエル・スミス?」
「いや、ジェームス〝スチュアート〟スミスだよ」
彼の手を、強く握り答えた。
「ミドルネーム、スチュアートなんだ⁉︎」
「そう、スチュアートを残したかったんだ。君は?」
「僕はそのまま、フレデリック・アラン・スミスだよ。僕は、このままでいいんだ」
彼はダッドと同じミドルネームに
満足しているようだ。
僕等は家に向かう
ダブルデッカーに乗ると
フレッドが、不意に訊いてきた。
「ねえ、ジェムのミドルネームだった〝サミュエル〟の由来、知ってる?」
そんなこと
気にしたことも無かった。
「サミュエルは、グランダッド[祖父]のファーストネームなんだよ。実はね、グランダッドも亡くなったんだ。ダッドが亡くなる、ほんの1ヶ月前に……」
僕はとうとう
一度も祖父に会うことは
できなかった。
フレッドは思い出すように
話し出した。
「ダッドとグランダッドは、わだかまりを残したまま逝ってしまった。グランダッドは意識が薄れゆく中、僕をダッドだと思って、ずっと謝り続けていたよ」
そういえば
ダッドはグランダッドに勘当されたって
だいぶ昔に、キャサリンから
聞いた覚えがあった。
「詳しい事情なんて、僕には分かんないよ。でも、こんなの悲しすぎるよ。生きている間じゃなきゃ駄目なんだ。死んでからじゃ遅いんだよ。だからジェム、マムのこと――」
「降りまーす!」