「あの坊や、すっ飛んで行っちまったけど大丈夫かね?」
エースがボソッと呟いた。
「あっ!」
僕は慌てて、走り出した。
彼はロンドンの町に、まだ
慣れてないはず。道に迷っていたら……
いや、それより心配なのは
ブランドマークが付いた
ポロシャツを着た彼が、この通りを
無事に抜け出せるかどうか?
金を捕られるならまだしも
腕の1本や2本
折られることも、まれじゃない!
下手すりゃ一生
病院行きの奴もいるらしい――
考えただけで、ゾッとした。
今まで自分は平然と
こんな所で、暮らしていたなんて!
〝フレッド、どうか無事で〟
一心にそう願い、走り回った。
そして大通りに出ると
ダブルデッカーを待っているフレッドが
そこに居た。
僕は安心して気が抜けたのか
それとも、久し振りに走ったせいか
膝の力が抜け
その場に座り込んでしまった。
「ジェム、どうしたの⁉︎」
フレッドが、慌てて駆け寄って来た。
「……良く無事で、あの通りを抜け出せたな?」
息を切らせている僕に触れた
彼の手の甲には
軽い擦り傷があった。
驚く僕に、気付くフレッド。
「ああこれ? 大したことないよ。変なお兄さんが道を通してくれないから、ちょっと避けただけ。大丈夫、走って逃げたから!」
そして、僕の顔を覗き込んだ。
「――心配してくれたの、兄ちゃん?」
僕は大きな溜め息を吐いた。
考えてみれば、彼は幼い頃から
父親と2人暮らしで
なにかと苦労もあったに違いない。
それを微塵も感じさせない
弟の笑顔を見て
とても恥ずかしくなった。
フレッドが父親と過ごしていた8年間の物語は、7章に執筆しました。弟は父親と2人暮らしでも、グレなかったみたい(´∀`)