僕が6歳を過ぎた辺りからダッドは
ほとんど家に居るようになった。
ダッドが子供用のギターを
買ってくれたから
「大きくなったら、ダディと一緒のステージに立つんだ!」って
意気込んでいたよ。
ギターが上手で優しいダッドは
大好きだったけど
家には帰らず、ダッドと喧嘩ばかりする
ステイシーの言うことなんか
当然、聞くわけない。
「マムったら酷いんだよ、文句ばっか言うんだ。マムなんか大っ嫌いだっ!」
僕が興奮する度、ダッドは膝に乗せて
なだめてくれたっけ。
「そんなこと言うもんじゃないよ。マムのお陰で、皆んなで暮らしていけるんだからね」
そう言って大きな手
彼と同じ、ブロンドで癖っ毛な僕の頭を
撫でてくれるのが嬉しかった。
それから、新緑が眩しい季節になると
ダッドはよく、近所の
プライベート[会員制]ガーデンに
連れ出してくれたんだ。
柵に囲まれたガーデンの
裏口にある簡素な鍵を開けると
そこには豊かな緑が生い茂り
僕とフレッドは、喜んで走り回ったよ。
ガーデンの外れにある、この一画は
のんびり散歩する老夫婦を
たまに見かけるくらいで
隠れ家みたいに静かだった。
ガーデンに着くと
ダッドはギターを取り出し
先ず最初に弾くのは、彼が唯一作曲した
〝スターライト〟だ。
クラシックギターで
搔き鳴らされる、この曲は
サビになると指の動きが
まるで星屑が散りばめられたような
速さになる。
僕も早く、この曲を
弾けるようになりたいと
ギターの練習は欠かさなかった。
そして年が明け
春の日差しが伸び始めた
忘れもしない、あの日――
プライベート・ガーデンと言えば、映画『ノッティングヒルの恋人』。ヒュー・グラント演じるウィリアムとジュリア・ロバーツ演じるアナが柵を越えて侵入したのが、住民などの関係者以外は立ち入り禁止のプライベート・ガーデンでした。
イギリスでは特別なものでなく、あちこちに有るみたいです(金持ちエリアにはw)
イギリスでは特別なものでなく、あちこちに有るみたいです(金持ちエリアにはw)
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